2007年10月05日

前田日明と星野勘太郎 / 伝説のセメントマッチ

前記事で「キレたら負ける」と二度に渡って記した。
私は前田が卑怯な手でリスクを伴わない安全地帯でのキレ方をした試合は嫌いである。
猪木に対しても同様である。
そういうキレるとは暴力性と幼稚性しか含まないからだ。

とかくプロレス界では陰湿で凄惨な行為と思われかねない「キレる試合」だが、私は一度だけ「キレたセメントマッチ」らしからぬ爽やかさを醸し出す試合を観た事が有る。

前田と星野の試合がそうであった。

私は幸運にも前田と星野が兵庫の一地方都市の体育館で壮絶な殴り合いを繰り広げた試合を垣間みる事が出来た。

プロレスに詳しくないだろうと思われる酔っぱらいのおっさんからも「プロレスをしろ」と野次が飛ぶ程の明らかに異質の試合であった。

覚えている印象を記しておく。

試合は星野が終始、ボクシングスタイルからのパンチをヒットさせた。
前田は蹴りで対抗するが、星野がパンチを合わせるので、何度も前田の首が思い切り
のけぞった。
有効打は圧倒的に星野であった。
判定なら明らかに星野の勝利とでもいえるような攻防であった。
素人目にも顔面パンチを知らない前田が星野のボクシングに翻弄されているような感が有った。
前田がパンチをあてられて悔し紛れに自分の頬に指をあて、「こいこい」と挑発するが、誰の目にも前田の劣勢が明らかなので会場から失笑が溢れた。

丁度テレビの「ガチンコファイトクラブ」で竹原にボコラレながらも負けを認めず向かって行くガキといった感じだったろうか。

そんな攻防が延々と続く。しかし前田は攻防を諦めてプロレスには逃げる事はしない。
星野は「プロレスをしろ、しないならこうだぞ」というような脅しと威圧感で前田をたしなめている。
そんな印象の試合であった。


翌週のファイト紙によると試合後、星野が前田の控え室に殴り込んだという事であった。

数年後、その時の試合を何故か誇らしげに嬉しそうに想い出として語る前田の口から意外
な言葉が出た。
『その後、木村健吾さんから「お兄さんになんて事をするんだ」と怒られた』との言葉であった。

出自を公にする少し前の前田が我々が同胞の先輩にいう「お兄さん」という言葉を使ったのだ。

同じ頃、長州との対談でも何故か唐突に長州から「星野さんとは会っているのか?」という言葉も出た。

私は在日三世のプロレスファンとして、そのような会話を聞く事は嬉しいものである。

あの時、己の血に殉じて、激しい身内喧嘩をする前田を私は好きであった。
あの頃の前田なら、秋山を許す事無く、暴走するキレっぷりを見せてくれた事だろう。

2007/07/29掲載

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posted by shingol at 11:58| スポーツナビ版アーカイブズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする