私が安田忠夫の試合で忘れられない試合は、PRIDE初戦の佐竹雅昭との試合であった。
セコンド陣の藤田和之、ブライアン・ジョンストン、橋本真也といった早々たるメンバーと共にPRIDEのリングに登場した安田は、まだ最強の幻想をギリギリ維持していた頃の新日本プロレスの強さの一角を成す選手であった。
その試合で私は驚くべき安田の奮闘振りを目にした。
突っ張りのフォームを繰り返し、ひたすら前に出て、佐竹を何度もサバ折りにとらえる。
相手の打撃にひるまず突っ張りで相手との距離を詰めるものの、ロープを背にした相手をテイクダウンさせることに戸惑った。
結果、試合が動かない展開に館内の観客はブーイングの嵐であったが、私的には安田の前へ前への電車道に心が動かされた。
イノキ・ボンバイヱはまだプロレスラーというソフトが、総合格闘技というハードを借りても、スターたりえることを示してくれたイベントでもあった。
その中で、共に総合格闘技においては素人に近い安田とバンナが熱戦を展開した。
佐竹戦同様、電車道の如く、ひたすら前に出て、相手をサバ折にとらえた。
しかし佐竹戦の教訓からか、サバにとらえてからのテイクダウンは抜群のものであった。
やれスウィープやらスパイダーガードやら、専門用語を駆使して、総合格闘技を見つめるファン、あるいはそういった技術の習得に夢中になる選手は多いであろうが、少なくとも、安田と同レベルのテイクダウンの技術を持たないなら、安田を素人扱いしないことである。
私は今でも総合のリングで、あそこまで抜群の胴タックルを決められる選手は見たことは無い。
大相撲で砂を噛みながら苦しい修行に耐えてきた安田、賭け事で相撲をクビになり新日本で出直しを図った安田、はたまた今度は総合のリングで出直しを図るとき、自身を守る術を原点の相撲時代に求め、佐竹やバンナ相手にドタバタと遮二無二電車道を突っ走る安田の姿に、私は感動した。
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