2008年04月30日

異人伝/桜庭和志の七発のタックル/ナカハラの腰は本当に強いのか?

桜庭と中原の試合について、私が残念なのは、桜庭がナカハラへの苦戦の原因が、ほぼ「腰が強い」で片付けられている事だ。

これは格闘技ファンの風潮でもあるが、テイクダウンを防げる選手は全て「腰が強い」の一言で片付けすぎているような気がしてならない。

実際に闘った桜庭の言葉から「腰が強い」という評価が出るのならまだしも、桜庭は現段階ではそういった事はコメントしていない。

私程度の低レベルの競技者の意見であるが、「ナカハラの腰は特別は強く無い」という印象を試合を見る限り感じた。

当然、極真空手という非常に競技としてのレベルの高い格闘技の王者であるだけに、その体力や気持ちの強さは並の格闘家よりも高いレベルにある事は間違いない。
その体と心の強さが、例え短期間であっても、桜庭への対応策としてタックル対策を練って来た成果を挙げ、レスラーやグラップラーと比べて、それほど強くは無い粘り腰をカバーし、被テイクダウン率の低さにつながったのだと私思っている。

まず最初のタックルであるローシングル。
背を向けて前に進んだナカハラはロープによって転倒を逃れる事が出来た。
その後、桜庭はローシングルによって捕まえたナカハラの踵を不安定のまま持たざるを得なくなり、総合格闘技では滅多に使わなかった「踵の持ち上げ」に行ってしまう。
しかし、レスリングの基本を忘れた桜庭は、ナカハラの踵を下から両手で持ち上げてしまい、当然のように相手に逃げられる事に成る。
「踵の持ち上げ」の際は、自分の片手を相手の首などに廻しておく事を忘れた、もしくはナカハラのパンチで廻せられなかったのかのどちらかであると考えられる。

差し合い(パメリング)の攻防では、桜庭は元々、不得手であり、そこから相手を転倒させる意思は無いと私は考えている。

二回目。
相手の間合いにやや遠い位地から仕掛ける。
バックステップされる。

三回目。
ナカハラのハイキックにバランスを崩し気味に、全く遠い位地から仕掛ける。
当然、簡単にバックステップされる。

四回目。
ナカハラのリズムの中でタイミングの合わないタックル。
バックステップされる。

特筆すべきはパックステップした後、相手に組み付かれても、すぐにナカハラが、桜庭の脇を差している事。

焦った桜庭が不慣れな投げを放とうとするが、脇をしっかりと差し、ナカハラはこらえている。

五回目。
バランスを崩され低い位地に追いやられた桜庭が、そのまま、今度は両足に入る。
ナカハラに粘り腰は無い。

しかし転倒後、ナカハラは上手くロープを利用して立ち上がる。

ここで六回目。桜庭はナカハラの片足膝裏を掴む。
しかしコーナーポスト際。
直前の攻防が尾を引き、桜庭の重心が高いまま片足を捕まえてしまっている事。
かつ、ナカハラが桜庭の脇を下から差している事。

この状態ではナカハラの腰が強い云々以前に、テイクダウンは非常に難しくなるはずである。

やむなく、桜庭は片足リフトを試みる。
(藤田がヒョードルを倒したボディスラムの原型技)

しかし、重心の高いままの桜庭はナカハラを持ち上げられない。

自分の頭をインサイドからアウトサイドに移行した桜庭は、自分の足を一歩引きながら、自分の重心を下げ、かつ、ナカハラのバランスを崩し、見事テイクダウンに成功する。

相手に脇を差され、自分の重心が高い位地のままから、見事にテイクダウンにつなげた桜庭の技術は私はもっと正当に評価されるべきだと思う。
おそらく総合であの体勢から相手を倒せる選手は数えるほどしかいないはずである。

最後のタックル。
再び両足を成功させる。

このようにナカハラは桜庭のタックルをこらえ切ったのは、実は一度も無い。
ナカハラがバックステップによって防いだタックルは全て、ナカハラの反応の良さ、適切な間合いの維持、それらによって誘発させた桜庭の焦りなどが全て合わさった要因としてのものである。

かつ、最初のタックル、及び五回目のタックル後のグランドからの脱出には上手くリングを利用する研究の後が見受けられた。

六回目の片足を粘ったのは、再度記すが、桜庭を高い重心に追いやり、かつ、桜庭の脇をしっかりと差していた事が原因である。

私は短期間で、これほどまでに、研究や努力の跡を見せたナカハラは立派だと思うし、元々のポテンシャルも相まって、もし今後、総合のリングで活躍するのなら、十分楽しみな存在であると思っている。

しかしナカハラの研究や努力が、たった一言、「腰が強い」だけで片付けられるなら、ナカハラの評価されるべき本質が見えなくなってしまうのではないかと思ってしまう。

かつ桜庭のタックルは、再三記して来た事だが、相手の腰の強さに関係なくテイクダウンを奪える技術である。
桜庭のタックルを防げるのは技術と反射神経でしかない。

つまりナカハラは、片足を掴まれた後の対処方法、リングの使い方、反射神経、それらによって「腰のバランスの良さ」を発揮し、桜庭を苦しめたのである。

なのに相も変わらず、桜庭からのテイクダウンを防ぐ選手を「腰が強い」で片付ける風潮は、かなり以前のガイ・メッツァー戦に対しても同様であったが、結局、格闘技メディアやファンの姿とは流行の技術だけを追い求め本質的なものは黎明期と何一つ変わっていないのではないかと私は危惧してしまう。

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posted by shingol at 02:25| 新・レッスルする世界